掲載された内容は取材時のものです。
宿に漂う空気は、手づくりで仕立てる。
親和苑
松岡エリ子
庭を歩いていると、木々のあいだに見えるのは「杜の図書蔵」。
雨でも降ればここに籠って、葉を打つ雨音を聞きながら本を読み、いつのまにかウトウト……。
親和苑には、ついうたた寝したくなる気配が漂う。
「家族みんなでこころを合わせてやっております」
女将の松岡エリ子さんが大事にしているのは、「温和」という香りだ。
数年前、大阪で修業してきた長男が帰ってきた。
父はその日からスパッと厨房から退き、畑仕事に専念した。
家族で丹精こめて作った食材を、料理長(長男)の腕に全権委任する。
そうして家族全員が、それぞれの目で旅館全体に気を配ります。
平成二十四年の水害でほぼ全壊し、全面リニューアルとなったが、漂う「温和の香り」は流されることなく、そのままの形で残っている。