ずっと、芋一本でやっていきます。
自然薯農家
岩下 奨
地下深く伸びる自然薯の姿で思い浮かぶ言葉があります。
「なにも咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ」
陽のあたるところだけがすべてじゃないぞ。
岩下奨さんは、かつてプラスティック成型工場で働いていた。
消防署職員だった父が趣味で育てていた自然薯を自らのあたらしいライフワークとして取り組んでいこうと決心した。
そもそも野生の植物で、山中で掘るのは技術と忍耐が要る。
自然薯栽培には、そんなワイルドな生き物を家で飼うような苦労がある。
すりおろしたとろろの、あの粘り気はいかにも滋養強壮の食べ物だ。
いい芋を作りたい、いまはそのことで頭がいっぱい……
と、畑の男はまっすぐな自然薯を慈しむように掲げ、
「ずっと、芋一本でやっていきます」