腹かかんこと、そういう生きかた。
阿蘇食品
川田エツ子
年齢を重ねるということは、衰えるのではなく自分のなかに自分ならではの輝きを蓄えていくことだ。
川田エツ子さんのまろやかさには、それが滲み出ている。歳月の贈りもの。
夫と二人で店を始めたのは、もうかれこれ六十年も前になる。
「最初は花屋だったのよ。花に囲まれて楽しかった」
夫は学徒出陣で戦地へ、そして最後の引揚者として復員してきた人だ。
妻が待つのは、もちろんあの舞鶴港だった。
「もう、そんなむかしのことはいいのよ」と仰るけれど、胸にせまる逸話。
昭和三十三年から食品を扱い始めた。
年を追うごとに評判が高まり、多忙だ。
毎日休むことなく調理の下ごしらえから洗い物まで何でもやる。
元気の秘訣は? と訊かれたら迷わず、「腹かかんこと」。
腹を立てない、つまり人を恨まない。おっとりと生きていく。