掲載された内容は取材時のものです。
すべてのものには波動がある。それを感じたい。
天然写真家
前田博史
生まれも育ちも土佐の高知、自然の息吹に浸って少年時代を過ごした。
熊本の大学に進んだのも、好きなバイクでとりわけ阿蘇の外輪山を走りたかったから。
卒業後故郷に戻り、自らの進路を見定められずにいたが、転機はとつぜん訪れる。
母の急逝だ。悲痛のなかで深く考えた。
短い人生、納得のいく生き方をしなければ、と。
ちょうどそのころ開眼していたのが写真という表現だ。
アルバイトしながら睡眠を削り、心に沁みる自然の世界と向き合い始める。
才能が開花したのだろう、一件の仕事が評価されて、また次へ、と依頼がつづいた。
が、自然撮影しながら、何かひとつ突き破れないもどかしさを感じていた。
「あるとき、カメラを持たずに山に入ろうと決めたのです」
ほっつき歩いた夕刻のことだった。
いつもは見過ごしていた森が厚みをもって迫る。
あっ、と息を飲んだ。自分の見方で空聞は変わるのだ!
天然写真家誕生の瞬間である。
自然のなかに佇んでいるときが無上の幸福と断言する前田博史さん、
いま、若き日々に心を熱くした阿蘇の波動を身に受けつつ、シャッターを切る。