お茶の香りは夫婦の香り、である。
森下製茶
森下誠次・さよ子
米を作り、畜産も行なう農家に生まれた森下誠次さんは、子どものときから農業に馴染んでおり、その実態もよく知っていた。
そう思っていたのだが、二十代前半にカルチャーショックを受ける。
アメリカ合衆国の中西部に位置し、「アメリカのハートランド(中心地)」とも呼ばれるアイオワ州で一年間の農業実習を体験したことだ。
「スケールという点で言えば、もうあきれるほど圧倒的な違いで……」
こりゃあ、とうてい太刀打ちできないと思い知った。
若き日のその思いが、いま精を出している茶づくりの基礎になっている。
地道に、自分のオリジナルを作り上げていこうと決心したのだ。
「阿蘇は高原の気候の特性で、病気や害虫の被害を受けにくいのです」
その意味で茶の栽培には向いている。
最も気を配るのは、晩霜の害ぐらいだ。
五月の収穫の、いちばん忙しい作業も夫婦二人でこなす。
「気ごころが知れてるからね」。お茶の香りは夫婦の香り、なのである。