阿蘇のたいやき 宇野 忍

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阿蘇市黒川1884(六月の風)
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掲載された内容は取材時のものです。

阿蘇の大地に、もう一人の自分が映る。

阿蘇のたいやき
宇野 忍

素朴ながら優雅な、阿蘇ならではの鯛焼きを焼こう。
そんな心意気で宇野忍さんは鉄板の男となった。
ようやく手応えを摑んだころだった、阿蘇の大地が揺れに揺れたのは。
すぐに避難所を巡った。
「とにかく、たとえ小さくとも元気を届けたかったです」。
手のひらに乗る鯛の甘さと温もりは人びとのこころに届いた。
身体能力の高い少年だった。中学で陸上部に入り、中距離ランナーとして開花。
期待されて進学した高校では追い込みすぎて故障に見舞われる。
が、ここでクサることなく、マネージャーとして黙々と仲間たちのサポートに回った。
そうした気質はどうやら生まれ持ったものらしい。華やかさを求めず、粘り強い。
それは社会人として有力な武器となったが、不運は三十代前半に訪れる。
病に襲われてほぼ十年間のブランクを受け止めねばならなかった。
「大苦戦でした」。
が、持ち前の粘りが跳ね返し、「頭が下がるほど妻に支えられて……」、みごと復活を果たす。
それが阿蘇の鯛焼きである。
熊本市内で老舗和菓子店を営む先輩を師匠と仰ぎ、寝る間も惜しんで、「自分の鯛焼き」を求めた。
「ただただ、がむしゃらです」。
最近、また長距離走を始めた。早朝走ると、阿蘇の大地にみずからの影が映る。
もう一人の自分、と呼ぶ。