掲載された内容は取材時のものです。
人馬一体、こころを通わせる。
畜産農家
竹原真理子
熊本県では女性でただ一人の「馬の人工授精師」である。
資格試験を受けて合格したのは五十歳のときだった。
動機は? 父の跡を継いで主婦のかたわらずっと畜産をつづけてきた竹原真理子さんは、授精の現場で獣医や授精師がちんぷんかんぷんの会話を頭越しにしているのが不満だった。
「持主なのに、これはつまらん、と」。
そして勉強を始める。よい先生に恵まれて楽しかった。
めでたく合格。といっても人工授精を主務とする生業ではなく、あくまでも馬を見守り、繁殖させ、育てるのが仕事だ。
その途上で、馬たちの恋の成就に手を貸すのも役割、ということだ。
「あの子はついこのあいだ赤ちゃんを産んだところ」といたわりの目で言う。
馬はほんとにかわいい。
「私がちょっと考え事をしたりしていると、そばにきてじっとしている」。
熊本地震では「ひと山なくなったとです」。
揺れた翌日に牧場に駆けつけた。馬はストレスにとても弱いから心配していたら、飼い主の顔を見て、ハーッと笑ったように見えた。ああ、よかったぁ。
元気な馬をどんどん増やしていきたい。
畜産だけでなく米も作っている。
主婦でありながらつづけてこられたのは、警察官だった夫の理解と応援があったからこそ。
ほんとに感謝しています。内緒やけどね。