掲載された内容は取材時のものです。
花は食べておいしい植物ではないのだから。
花農家
鳴川孝宏
すらりとした茎の先端になんとも気品あふれる花々をつける、トルコギキョウ。北アメリカ原産なのにこの名があるのは、花の形がトルコ人のターバンに似ているからとか、花色のひとつ青紫色がトルコ石を連想させるから、など諸説あって定かではないが、じつに物語めいた魅力的な花だ。
鳴川孝宏さんがこの花に惹かれ、手がけ始めたのは二十年前のことだった。
「高校を出てすぐ就農したのですが、高校の同級生だった友人がとても熱心にトルコギキョウを作っていて、触発されました」。
父と母は以前、トマトを作っていた。そのなかで育ち、「ずっと早い段階から自分の人生の道は農業、と決めていました」
トルコギキョウは花のなかでは育てにくい部類に入る、という。連作すると茎が細くなるから土を肥やさなければならない。天候に大いに左右される。などなど、気を抜くことはできない。
が、「農業とはそういうもので、どんな作物でも容易にはできません」。
むずかしいから奥が深い。簡単にあきらめてしまえば結局なにも究められない。そう確信している。
震災のあともこの花は輝きを失わない。荒んだ心を癒してくれる。
「野菜とちがって花は美味が価値ではなく、あくまでも見て感動してもらうもの。それが勝負です」。