王朝文化のもてなしの心を奏でる。
琉球古典音楽野村流保存会 師範
下田美輪子
大阪から阿蘇に嫁いできた。バスケットボール審判員として全国を飛び歩く夫が、あるとき沖縄土産に三線(さんしん)を買ってきてくれた。三味線には少し親しんでいたが、初めて接する沖縄の楽器の魅力ははるかに強烈に発信してくる。「向こうで誰かに習ったら?」という夫の勧めに従った。三十八歳のときだ。
南国に飛び、三線師匠を紹介される。五十代なかばで「まだ若手」の 師匠の案内により本場の演奏を拝聴し、身も心も奪われた。その日のうちに入門を決め、以後、月に一度、二泊三日で二十時間、観光などいっさい無縁の「みっちり修業」が始まった。
琉球の歴史的な宮廷音楽は荘厳である。一拍一拍が人間の正しい脈拍と等しいから、このうえない安らぎに導かれる。奥が深い。「いつもは杖をついて歩いているお年寄りが、三線を持つときりっと姿を変えます」。
それからはもう、三線まっしぐら。ひたすら稽古を積み、沖縄タイムス社のコンクールでグランプリ、2016年には師範の免許皆伝。現在、阿蘇市だけでなく、県外も含め三歳から八十四歳まで三十人をこえる生徒を指導する。「とびきりの癒し」は、この大地によく似合うのだ。