分け入れば分け入るほど、終わりのない世界。
雅楽師
松岡靖乃
小学生のときから歴史ものが大好きだった。奈良交通のバスガイドになったのもその動機が大きい。全国を訪れて、「ああ、ここがあの戦いの場だ。なるほど、こういう布陣だったか」とわくわくしたものだった。
阪神淡路大震災を契機に阿蘇に戻った。二十八歳で結婚する。雅楽との出会いはその二年後。源氏物語に登場する音楽に憧れつづけ、いつかは自分で演奏したいという夢は諦めていなかった。大分に雅楽会があり、一般人でも入門できると知り、すぐに決断した。
初めて触れたのが、竹の管でつくられた「舞い立ち昇る龍の声」にたとえられる横笛・龍笛である。「でも、どう吹こうがまったく音が出ないのです」。懸命に取り組んだ。古代から脈々とつづく音楽だが、基本的に楽譜というものはない。「口伝(くでん)」である。だからこそ、時を超えて語りかける「生の声」を感じ取れるのだ。
2017年初めに仲間と結成した「熊本雅遊会」の活動は積極的である。阿蘇市内の小中学校の音楽授業で演奏したり、各種施設を訪れたり、新しい試みにも挑んでいきつつ、「分け入れば分け入るほど、終わりのない世界」に今日も分け入っていく。